日本で絶滅寸前な精神分析というものについてー精神分析はトラウマを思い出させるのか

精神分析は忘れられていたトラウマを「思い出させる」?

 精神分析というと、忘れ去っていた幼少期のトラウマを思い出させるというイメージを抱いている方も多いでしょう。
 
 実際、フロイトの治療報告には、患者さんが忘れられていた記憶を思い出すことで症状が軽減するという過程がみられます。特に、精神分析が理論化される前の試行錯誤の時代には、催眠などによって過去の記憶を思い出させることに治療の焦点が当てられていました。中には、前額法という、治療者が患者さんの額を押しながら「あなたは~について思い出す」と言って思い出させるという、やや強引な方法がとられていた時期もあったようです。
 
 しかし、フロイトの時代から精神分析の理論も発展しており、現在の治療においては、忘れ去られた記憶を思い出させることだけに焦点が当てられるわけではありません。
 
 

精神分析では無意識的なとらわれを扱う

 基本的に、精神分析では、無意識がその人の行動や心を制限している部分があり、それらの無意識がその人自身に統合されると*1行動や心の自由度があがると考えられています。
 
 ですので、フロイトの時代のように、忘れ去られていた(無意識にある)幼少期の記憶やトラウマが思い出されることで変化が起こるということも起こります。しかし、無意識に押しやられているものは過去の具体的な出来事だけではありません。さまざまな感情や考え、関係性のパターンなどもそこに含まれます。
 
 例えば、きょうだいのことを「すばらしい人」と思っているけれど無意識では強く憎んでいる。母親が嫌いでたまらないけれど無意識では認めてほしい気持ちがある。自分は何もできない人間だと思っているけれど心の底には「自分は誰よりも優れている」と考えている。もしくは、いつも自分を傷つける人に近寄ってしまう、権威のある人の言いなりになってしまうなど、自分でも気付かないうちに同じような対人関係のパターンを繰り返している。…こういったものも無意識の世界にちりばめられています。
 
 精神分析の治療過程では、上記のような、本人も認識していない無意識の感情や考え、関係性のパターンが、自由連想の中に、もしくは治療者との関係性の中にあらわれてきます。分析家はそれらがどのようなものかを見極め、患者さんがそれらを体験し、理解し、自分自身に統合していけるよう働きかけていくわけです。決して、何か幼少期のトラウマを「思い出させる」ことだけに焦点が当てられるのではありません。
 
 

過去だけではなく「今ここ」を見ていく精神分析

 もちろん、過去の出来事やトラウマも重要です。むしろ、そういった過去の何らかの出来事がきっかけで、上記に描いたような無意識的な感情や考え、関係性のパターンが作られることが多いと言えます。
 
 しかし、治療では、過去のどの出来事が原因なのかを探ることよりも、患者さんの自由連想や、治療者との関係性、そこに出現する考えや感情といった「今ここで」の出来事を丁寧に見ていくことで、患者さんを制限している無意識的なとらわれがどのようなものなのかを明らかにしていくことがより大事になってきます。
 
 精神分析は「過去」だけに目を向けるものではなく、過去の集積である「今現在」をつぶさに見て、これからのあなたがより自由になれることを目指す実践であると言えるでしょう。
 

 

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*1:ここには意識化、言語化されなくても統合される場合があるということが含まれています