日本で絶滅寸前な精神分析というものについてー精神分析家について

精神分析家はどんな人たちなのか

 前回は精神分析のやり方について説明しました。では、この精神分析、実際にどんな人が実践しているのでしょうか。
 
 映画『チャーリーとチョコレート工場の秘密』では分析家のウンパ・ルンパが白衣を着ていましたが、医者が行うものなのでしょうか?精神分析理論を用いて哲学や思想を論じている学者も多くいますが、そういう人たちも精神分析を実際におこなっているのでしょうか?本で学べば誰でも出来るものなのでしょうか?
 

精神分析家になるには養成機関での訓練が必須

 実は、精神分析家は、精神分析家のための養成機関(インスティチュートと呼ばれます)において訓練を受けて資格を得た人がほとんどです。日本では、日本精神分析協会がその訓練と資格認定を担っており、これはフロイトが立ち上げた国際精神分析協会からインスティチュートとして認定された組織です。日本の場合、訓練を受けるには医師か大学院修士課程修了者で5年以上の臨床経験を積んでいることが条件の1つとなっています。
 
 訓練内容は、自身が精神分析を週4日以上受けること、週4日以上の精神分析の実践を行い、精神分析家にそのスーパーバイズを受けること、協会が主催するセミナーを受けることの3つに分けられます。訓練を受け始めてから精神分析家になるには、それなりの時間がかかることが多く、3~6年、長い場合は10年以上かかることも珍しくないようです。
 

日本にいる精神分析家の数

 こういった正規の訓練を経て資格を取得し、日本精神分析協会に登録されている精神分析家ですが、なんと日本では現在30数名しかいません。
 
 日本の全人口を考えるとほんの一握り。しかも、一人の患者さんが週に4回、5回来るとなると、一人の精神分析家が担当できる患者さんはせいぜい6,7人。さらに、資格をもっていても全員が精神分析の実践をしているわけではありません。ですので、日本で精神分析を受けている人自体も非常に少ないと言えます。
 
 こういうことをふまえると、欧米諸国と比べて、日本では精神分析が身近ではなく、詳しいことを知らない人が多いのも無理はないですね。ちなみに、アメリカやヨーロッパ、また南米の精神分析家の数は数千人という規模となっています。少し意外かもしれませんが、欧米諸国だけでなく南米でも精神分析は身近なもののようです。
 

日本に精神分析家が少ない理由

 何故こんなにも日本に精神分析家が少ないのでしょうか。
 
 その理由の1つに、アムステルダムショックと呼ばれるものがあります。実は、1993年には、日本における精神分析家の候補生(精神分析家を目指して訓練をうける人たち)は80名あまりいたのですが、翌年には彼らの人数は6名に減りました。
 
 何が起こったかというと、先ほど、精神分析家になる訓練では、週4日以上、精神分析を実践すること・精神分析を受けることが求められると書きましたが、実は日本はそれまで、その両方を「週1日」でOKとしていたのです。しかし、国際精神分析協会の年次大会がアムステルダムで行われた1993年、その事実が国際精神分析協会に伝わり、国際基準である週4日で行うようにと協会に言われてしまいました。この出来事がアムステルダムショックと呼ばれています。
 
 週1日でOKとされていたものが急に週4日以上となるのは大きな違いですね。かかるお金も時間も全く違ってきます。訓練の条件が急にこれほど大きく変わってしまい、候補生だった人たちの衝撃はいかほどだったことでしょうか。実際、新たな訓練条件では訓練を継続できない・しない候補生が大量に出現し、それ以降、精神分析家の数は大幅に減ったと言えます。
 
 外国から輸入されてきた文化を何でも自国流にしてしまう日本らしいエピソードと言えますが、この出来事は、日本の精神分析の現在に大きく影響をおよぼすこととなりました。
 

最も有名な日本の精神分析

 ちなみに、現在いる数少ない日本の精神分析家の中で、最も有名な方は北山修でしょう。そう、あの『戦争を知らない子供たち』『あの素晴らしい愛をもう一度』などの楽曲で60年代に一躍有名となったフォークバンド「ザ・フォーク・クルセダーズ」のメンバーであった人物です。
 
 精神科医である北山修は作詞家として数々のヒットを生み出すも、その後、自ら音楽業界を離れてイギリスに留学し、精神分析家となりました。華やかな世界を後にしたその決意は相当なものと思われますが、彼をそこまで動かした精神分析というものもまた、それだけの魅力をもつものなのだろうと思います。
 

もし精神分析を受けるのならば

 もし、あなたが精神分析を受けることに関心をもった場合は、治療者のプロフィールに「精神分析」と書いてあったとしても、日本精神分析協会、もしくは海外の訓練組織できちんとした訓練を受けているかどうかを確かめた方がよいでしょう。特にネットでは、本やセミナーで学んでだけで精神分析を行っていると記載している治療者もいるため注意が必要です。
 
 最もよい方法は、日本精神分析協会を通して治療者を探すことです。候補生による治療を通常よりも安い価格で受けられることもあるようです。