日本で絶滅寸前な精神分析というものについてー精神分析のやり方

日本に馴染みのない精神分析

 欧米のドラマや映画には、よく精神分析という言葉が出てきます。「週末に分析家に会ってくるわ」「あなた、精神分析を受けた方がいいんじゃないの」など、こんなセリフを聞いたことがある人も少なくないでしょう。
 
 例えば、少し古いですが、映画『チャーリーとチョコレート工場の秘密』では、チョコレート工場の主であるウォンカがソファに横たわり、精神分析家に扮したウンパ・ルンパから精神分析を受けるというシーンがありました。一種のジョークではありましたが、それがジョークとして成立する程度には精神分析が一般に浸透しているということかと思います。
 
 ところが、日本では精神分析という言葉は知っていても、それが実際にどういうものかを知っている人は少ないのではないのでしょうか。「カウチに寝て話をする」「小さいころのトラウマを思い出させる」「何でも性的なものに繋げる」などなど…曖昧で断片的なイメージしかない人がほとんとではないかと思います。
 
 それらのイメージは、当然、正しいものもあれば間違っているものもあります。いえ、もしかすると間違っているものの方が多いかもしれません。これから何回かに渡って、そんな誤解されやすい精神分析に関する「本当のところ」について書きたいと思います。
 

精神分析の正式なやり方

 まず、精神分析とはどんなものか、そのやり方について説明しましょう。
 
 精神分析では、基本的に、患者さんはカウチに横になり、分析家は患者さんの頭側に置かれた椅子に座ります。患者さんから分析家の姿は見えないわけですが、むしろそれが治療にとって大事であったりします。その理由はいくつかありますが、例えば、顔が見えると分析家も患者さんもお互い相手の表情を読み取ることに気が向いてしまって、後述する「自由連想」がうまく出来なくなってしまうことなどが挙げられます。
 
 そして、カウチに横たわった患者さんは「頭に思い浮かんだことを何でも」話していきます。これを自由連想といいます。この「何でも」というのがミソで、くだらないと思えるような些末な思いつきや、他人には聞かせられないようなこと、それまでの話題と全く関係ない飛躍したことなど、話すのを躊躇してしまうようなことも、思いついたことであれば全て話すということになっています。
 
 これは実際にやってみると完璧にこなすことは難しいのですが、他ならぬ患者さん自身の無意識をみていくためには、分析家が話題を誘導しないことが必須となります。
 ちなみにフロイト自由連想をこのように表現しています。
…ですから、頭に浮かんだことは何でもお話しください。たとえば、あなたが列車の窓際に座る旅行者だとして、車両の内部の人に窓から見える移り変わる景色を描写して聞かせるようにしてみてください。
フロイト「治療の開始について」
 何となくイメージがついたでしょうか。それにしても、フロイトがこういう説明の際に持ち出す比喩というのはとても上手だなと思います。
 
 最後に、面接の頻度ですが、なんと精神分析では週に4回以上に行うことが標準となっています*1。このあたりは、一般的な感覚からすると「そんなにやるの?」という感じがするのではないでしょうか。ふつう、習い事でも通院でも、多くても週1回ですよね。
 
 しかし、週に1回の面接だと、その1週間の出来事の報告やそれにまつわる気持ちを話しているだけであっという間に時間がきてしまいます。もちろん、具体的な問題の解決や気持ちの整理を目的とした普通のカウンセリングであれば週1回で十分なことが出来るのですが、人の無意識を扱っていく精神分析では、それ以上の頻度が必要となってきます。
 

精神分析という特殊な実践

 カウチに横たわる、自由連想をする、週に何回も通う…精神分析のやり方に関する主要な特徴を3つ挙げましたが、これらの点だけでも、精神分析は通常の会話や関係性とは異なる、特殊な実践であることが分かります。また、週に何回も通うとなると、それなりのお金と時間を費やす必要があることも分かるかと思います。つまり、精神分析とはある程度のお金と時間をかけて特殊な実践に取り組むものである、と言うことができるでしょう。
 
 これだけのコストをかけるものが、フロイトから100年以上経った今もなお、そこまで大きく姿を変えることはなく残っているわけです。それを考えると、精神分析がそのコストに見合う何らかを確かに提供してきたこと、また、それを求める人が どの時代にも一定数はいるということが推測されるでしょう。
 
 今この現代においても、精神分析が提供するものを潜在的に求めつつも未だ精神分析と出会っていない人というのが確かに存在していると思います。その方たちが精神分析と出会える機会が少しでも増えることを願ってやみません。
 
 次回は精神分析家というものについて書きたいと思います。 

 

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フロイト技法論集

フロイト技法論集

 

 

*1:国際精神分析協会の基準による